03労働におけるジェンダー問題の解決策

では、これまで述べてきたことを踏まえながら、「労働におけるジェンダー問題の解決」に必要な政策について考えていきます。
わたしは、これらのジェンダー問題を解決するにあたり、以下の3つを重要な政策として提案します。
1つは文化の創造、2つはしくみの創造、そして最後がネットワークの創造です。

文化の創造

まず、文化の創造というのは、教育を通してジェンダーの枠組みを取り払い、一人ひとりが個人として尊重されるような文化をつくるということです。たとえば、企業等で定期的に、ジェンダーについて理解する場を設けるのはどうか。現在、NPOや民間団体の中に、ジェンダーギャップを取り払うために積極的に活動している人々がいます。彼らが実際に企業等に赴き、ジェンダー問題についての勉強会などを開くという政策です。これにより、職場での男女のあり方などを再確認できると考えます。
日本社会では、無意識のうちに性別によって社会的地位や役割を固定化する傾向がいまだに存在します。労働とジェンダー問題に関しては、1985年に「男女雇用機会均等法」がつくられ、職場における男女の平等化の環境が整えられました。しかし、それは形式的なもので、実質的には男女の間に不平等が残っていることがわかりました。
前にも述べてきたように、「育児休業制度」がその例です。これも、女性が取得することが当然だと認識されています。同様に、一般職・総合職といった男女別の採用もそうです。
このように、外見上ではわからない不平等が多く存在する日本社会。しかし、それに異議を唱える社会構造になっていないということは、ジェンダーにたいする意識が日本の文化にあまり根付いていないからだといえるのではないしょうか。
それゆえ、本来の男女平等を実現するためには、教育を通して人々の意識を変え、文化としてジェンダーを理解する風潮をつくる必要があると考えます。

しくみの創造

次に、しくみの創造というのは、これまでに提案されてきた政策を見直し、社会に広く浸透させるということです。
既存の政策を社会の中で有効活用されるよう、改善し、普及させていくという政策です。
職場での男女平等がうたわれるようになってから、提案された政策は多くあります。しかし、それらの政策が社会で効果的に実践されているかというと、必ずしもそうではありません。
例として、企業における仕事と子育ての両立支援策をあげてみましょう。これは、女性にとって働きやすい環境を支援するための政策として、企業がおこなっている措置のひとつです。
下のグラフ(育児のための勤務時間短縮等の措置の有無・最長利用機関別事業所割合 第25図)では、育児のための勤務時間短縮等の措置をとっている事業所は41.9%となっています(厚生労働省「平成16年度女性雇用管理基本調査」より)。しかし、半数以上の事業所では措置が施されていません。

このような政策があるのにもかかわらず、取り入れる事業所が少ないというのは非常に残念です。そのため、このような政策をもっと多くの企業に知ってもらい、導入してもらえるような政策が必要なのではないでしょうか。
たとえば、既存の政策を実践し、働きやすい職場づくりを心がけている企業は、実践や取り組み例をホームページや就職案内に掲載し、社会に積極的にアピールする。これにより、社会のジェンダーにたいする意識を高め、他の職場環境にもよりよい影響を与えることができると考えます。

ネットワークの創造

最後に、ネットワークの創造です。
上記で述べた政策を実現させるためには、強い組織づくりが必要です。政策を立案し、広めていくにはステークホルダーとの連携がとても重要だと考えるからです。そのため、企業、公的機関、民間団体、そしてわたしたちが相互に関わり合い、主体的にジェンダーについて考えられる機関づくりを政策として提案したい。この機関を通して、労働におけるジェンダー問題に疑問を感じる人々がネットワークを形成し、社会へ問題提起をすることが可能になります。

この考察をまとめるにあたって、R大学でおこなわれたセミナーを受講しました。その講師のO先生のお話にあったのですが、ご自身でメンバーを集め、女性問題に立ち向かうプロジェクトを推進しておられるという。そして、ジェンダー問題で困ったことがあれば、気軽に相談できたり、意見を交換したりできる環境がそこにあるということをお話してくださった。そして、実際にこのような環境を活用し、ジェンダー問題改善をはかってこられたことを知り、わたしはネットワークの重要性を非常に感じました。
それゆえ、労働におけるジェンダー問題についても、改善を望む人々同士が力を合わせ、幅広いネットワークを形成し活動に取り組むことで、少しずつ周りの意識を変え、現状を改善することができるのではないかと考えます。

セミナーの様子

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今回のセミナーのテーマは、「人権とジェンダーについて」。
学生さんや社会人の方など幅広くセミナーを受講されていました。さまざまな立場の人とお話でき、
たくさんの刺激をいただく一日でした。

講師のO先生には、セミナー後も、個別にいろいろと質問をさせていただきました。
この場をかりて改めて御礼申し上げます。
O先生は福祉現場で働かれながら、家族のあり方や高齢者福祉問題などを中心に、老若男女問わず暮らしやすい社会の 実現に向けて積極的な課外活動もおこなっていらっしゃいます。